タイ進出のサービス業の中でも多いのが飲食関係の起業で、事業拡大や海外に活路を見出すべく毎年多くの飲食店が参入してきます。そのためバンコクなどは日本各地の有名店を海外に居ながらにして食べることができる魅力的な環境となっていますが、進出店からすると高い競合性のなかで戦わなければなりません。そうしたとき非常に重要になってくるのが、地元タイ人をいかにたくさん自分のお店へ呼び込むかということになってくるでしょう。
メインターゲットは日本人かタイ人か
ウェブサイトなどでそのお店が使っている言語を見ると、メインターゲットがどこにあるかがよくわかります。在留邦人が7万人を超えるタイでは、日本人はメインターゲットとして十分な数ではあるように思えますが、日系及び地元タイ人経営の飲食店が相手なるため、競争率と求められるレベルは非常に高くなっています。特に競争の激しいバンコクでは、わずか1年程度で消えていく店も少なくありません。日本人が多いからとはいえここはタイです。タイ人客を呼び込んでこそ成功といえます。
タイ人客を呼び込むためのローカライズ
「日本のこだわりの味をタイの人々へ」、確かに有意義でありどのお店も目指すところとしているでしょう。しかし全く日本と同じ味などをタイに持ち込むとあまり思わしくない結果に繋がっているような印象をおぼえます。
日本食ブームというより、今やタイの一つの食事ジャンルとして定着している日本食。現在タイ人は日本への渡航で日本文化について本物志向になってきてはいますが、それはまだまだ一部であり、タイ人の食に根本的な変化があるわけではありません。タイでながく続いている先駆け的な日系飲食店は試行錯誤し、細かな点でローカライズを行ってきたといえるでしょう。
少しの例としてよくいわれる以下のようなことがあります。
量…タイ人は日本で出される量では多い。食文化的として3食しっかり食べるというより、少ない量を多い回数食べる習慣がある。
味…薄口であるといえる。クイッティアオのように調味料で自分好みに味を整えて食べることも影響していると思われる。
温度…日本人のように料理は舌を火傷するほど熱いものが好まれ、それが良いことであるとはされない。鍋料理などは別としてタイ人はあまり熱い料理を好まない。
(ちなみに食と関係あるかどうかわかりませんが、水やぬるい温度のシャワーを浴びるのが普通であることから熱いシャワーが苦手です。)
こうしたことを考えると、どのくらい取り入れるかは各店異なるにしてもローカライズは必要なものであるといえるでしょう。そうしてはじめてトムヤム系や、最近の傾向ではチーズを入れたメニューなどのわかりやすい部分へ進めるのかもしれません。
ただ、日本のおもてなしについての教育はタイ飲食業界でのホスピタリティの底上げに繋がるので良いことだと思います。
タイ人客を呼び込むことに成功したタイ人経営の日本食店
タイで成功するにはタイ人のことをよく知る必要がありますが、タイ人について熟知しているのは何といっても同じタイ人です。タイ人経営の飲食店のやり方を知ることは、タイ人の集客への糸口となるといえます。
そこで、バンコクに近年高い集客に成功し店舗数を増やしているタイ人経営による「剣心」という居酒屋がありますので、そのお店を例にとってどのような点が集客に繋がっているのか分析してみたいと思います。
居酒屋剣心について
居酒屋剣心という名前はお気づきの方もいらっしゃると思いますが、少年ジャンプに掲載されて映画もヒットした「るろうに剣心」からつけられています。アソークにオープした1号店はタイ人の間で人気に火がつきプロンポンにも2号店を出店。こちらも連日盛況で賑わっています。外国人から見た日本らしい派手でわかりやすい店舗装飾が特徴的で、来店客の約90%近くが地元タイ人とのことです。
居酒屋剣心 集客成功の理由を分析
プロモーション
タイ人はプロモーションが大好きです。お店に入ると、まずは何かプロモーションをやっているかチェックする人が多くいます。これは剣心に限ったことではなく、タイでは普通に行われていますが重要なことで、ある意味タイ人はプロモーションがあるのは当たり前だとも思っています。
よく行われているのが、一杯飲むともう一杯サービスなどのOne Buy Get Oneは飲食業でも定番です。
Facebookの活用
Facebookが肝であることを以前記事で書きましたが、剣心のFacebookはページいいね数やファン数がとても多いです。オープン当初は日本語で投稿されており、日本人客を意識した時期があったことが興味深いです。Facebookをタイ語で投稿し、ターゲットをタイ人に完全シフトしたあたりからお店もブレイクしたと考えられます。投稿内容を分析すると以下のような傾向があります。
「日本の地名がついた日本語のドリンクメニュー」
北海道ラベンダービール、富士山の桜などのドリンクメニューがあります。これは他の業界でも見られる傾向で、タイの町を歩いていると日本の地名のついた商品広告をよく目にします。やはり日本への旅行で一番の人気のある北海道というキーワードが最も多く、他には富士山、最近では沖縄ツアーを推している旅行会社が多いせいか沖縄というキーワードも見ることがあります。これらの日本の地名の使用は、日本を打ち出す場合タイではとてもイメージしやすく効果的があるのではないかと推測されます。
「店内の写真」
派手な日本イメージの演出が施された店内が来店客で賑わっている様子を投稿しています。店内の様子がわかるとともに、ただご飯を食べるだけでなく写真を撮ったりして楽しめる場所としてのお店を好むタイ人に訴求できているようです。また、カップルや友達との具体的なシチュエーションカットも使用しています。
「インフルエンサー」
これははっきり断定できませんが、インフルエンサーらしき投稿が見られます。これは一番手っ取り早い手法で、言ってしまえば芸能人などの宣伝に右向け右の傾向が非常に強いタイではインフルエンサーも絶大な力を発揮します。インフルエンサーにも得意分野があるので、投入する場合は得意ジャンルをチェックするとよいでしょう。
おおむね気づいた点を上げました。あとは必須のFacebook広告を上手にかけていくといったところでしょうか。
覚悟を決めたチャレンジで!
以上飲食業で私なりに思うところやマーケティングについて書いてみました。少しでも参考になればと思います。バンコクは冒頭でも申し上げた通り日本のあらゆる料理が食べることができる環境で、日本の地方より有名店の味を楽しむことができます、それだけにレベルは高く、今後進出のお店には困難な道になるかと思いますが、それだけにやりがいはとてもあると思います。覚悟を決めたチャレンジで、是非あなたのお店の味をタイに広めていってほしいです。
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