タイ起業においてまず大変なのは会社設立までの様々な条件や必要書類のクリアですが、タイには日系の法律事務所や会計事務所などのサポート会社が多くありますので、その指示に従って段階を踏んでいけばスタートにこぎつけることができるでしょう。しかし最も大変なのはその起業後の運営、特に地元タイ人従業員とうまくやっていくことではないでしょうか。こればかりは日本人を相手にするわけではないので、予測もつかないようなことが起きたり、関係性が悪くなったりすることがあります。これは会社やお店の運営を続けながら学び、より良い関係性を築いていくしかない部分ではありますが、まずは一緒に仕事をしていく上でタイ人について知っておきたいことや、その教育について、実際にタイで会社員として働いた経験を踏まえた私なりの見解も含めてお伝えできたらと思います。
タイ人の性格について
最初に覚えておいていただきたいのは、当たり前のことではありますが、日本人とタイ人は生活環境や文化が異なるため、日本人と同じような常識枠でとらえないことです。タイに何度か訪れて接したくらいではなかなかわからないタイ人の性格について知っておきましょう。
我慢するのが嫌い
日本人は我慢しすぎるところがありますが、目標達成のためや、それを美徳と考え、仕事に従事します。しかしタイ人は日本人と同じように会社のために我慢してくれないことがほとんどです。たとえ我慢を強いるのは先々のビジョンのためだと説明しても、嫌だと感じることははっきり拒絶しますので無理をさせると離れていってしまいます。
この理由について考えても仕方ないのですが、やはり一年中同じ季節で肥沃な土地であることから、日本のように冬が来る前に計画的に備蓄をする必要がないことも由来しているかもしれません。
プライドが高い
タイ人はプライドが高いことで知られています。特に人前で叱られたりすることをとても嫌います。人前で恥をかかされたと感じ、叱った相手を恨むことでしょう。日本人のように他の社員の前で恥をかくことによって、自分を戒めて精神的にも鍛えられていくといった感覚はおよそ理解してもらえないと思います。
このため従業員に対して何かミスなどの注意をする時は、個別によんで一対一で話すようにしましょう。これはタイ人社会でもよく見かける光景で、会社に限らずサービス業などでもお店の裏で上司が部下に注意しているのをしばしば目にします。
約束が怪しい
タイで働いていると日本では考えられないようなことが起きます。以前お役所に申請関係の書類提出を行って認可されていたのですが、次に行ったときにはどういうわけかその認定書類が無効になっていた、などの不可解なことが起きたりします。また仕事の日常的なシーンでは、例えば事務所の設備が故障して修理のため業者を呼んだとすると、時間に遅れるのはほぼ当たり前で、ひどい場合は約束の日に来なかったりします。配達なども半日以上遅れたりすることは頻繁にありますので、仕事に支障がでないためにも、重要なプロジェクトはかなり余裕をもったスケジュールを組まれることをおすすめします。また、タイ人に限らずタイに永く住んでいる日本人の方も慣れてしまっているのか、ミーティングなどの予定を忘れられてしまうことがあるので、確認の連絡はなるべくするように心がけた方が良いでしょう。
日本人のように好戦的でピリピリしてない
ルーズなのは仕事をする上でとても困りますが、日本人社会のようなピリピリした対人関係はあまりなく、大らかに接してくるのがタイ人です。度を越すと私語が多かったりはしゃいだりしますが、基本的にヤンキー体質の日本人のようにすぐ相手に敵対する好戦的な雰囲気はなくフレンドリーといえるでしょう。
独立精神が旺盛
我慢することが嫌いなせいか、タイ人は独立精神が旺盛です。よく将来何になりたいかと聞くと、どこどこの会社に就職して、などの回答より会社やお店を始めたいという回答が多く見られます。町を歩いていても露天で洋服など様々なものを売ったりしている人をたくさん見ますし、露天やお店を持たなくてもFacebookでの個人販売したりなどはよく行われています。
昔の日本も驚くほどたくさんの職種があったそうですし、何か自分でお金にしていこうという精神と実行力は見習うべきものがあるのではないでしょうか。
手先が器用な人が多い
技術職においてタイ人は手先の器用な人が多いと聞くことがあります。何かを解体して類似品を作り、それを売るようなややバッタ物的な感覚もありますが、工業系や美容室などのサービス業だけでなく広告関連のデザイナーなども優れた人材が多いと思います。
タイ人の雇用について
では実際にタイ人を雇用する上で起きやすい事例をあげてみます。
人材募集
現在タイの日系企業では人材難を抱えている企業が多いようです。以前は募集をかけるとたくさんの応募があったのですが、年々縮小傾向にあります。これには前述の個人の独立傾向や、タイや日系企業以外の外資の会社の台頭もあるかと思われますが、その他に情報収集不足で基本賃金の高騰による現在の給与について市場と提示額にずれがあることから応募が伸びないということも考えられます。
面接段階
そんな貴重な人材ですが、雇用の面接段階で以下のような事例があります。大会社では起こりにくいかもしれませんし、対策というより知っておくとよいのではないかということで。
面接日に来ない
これは日本でもありますが、タイの場合はさらに多いといえます。
面接に一人で来ない
時々兄弟や友達、または恋人について来てもらったりする人がいます。これが意外と多いんです。
雇用が決まってから
面接が終わっただけで安心してはいけません。入社の初日に来てくれるか保証がないのです。実際初日に来ないという人はいます。また、理由ははっきりしませんが、数日は出社して急にぱったり連絡もなく来なくなったりします。こういった人材の見極めはスタートしてみないとわからないので難しいですね。
タイ人の教育について
日本でもそうですが、人の教育というのはとても苦労が多いですね。ただでさえ育った環境も文化も違う相手に仕事の教育をしていかなくてはいけないのですから。あなたが経営者であれ、駐在員であれ現地採用者であれ、厳格に仕事を進めるべく日本をタイに持ち込んで厳しく統率するのか、またアウェイであるがゆえ部下との衝突を避けてヘラヘラと同調してしまうのか、その人の性格によって接し方も違うと思います。
確かに大らかな南国の環境は日本で感じていたようなストレスはありませんが、逆のストレスはあります。特に日本に本社のある赴任者に多いのがタイと日本との板挟みです。決して自分のせいで起こったことではない仕事の遅れやトラブルも、タイで働いたことのある人にしかわかってもらえないようなことが原因となっている場合がほとんどで、そのため日本の本社には理解してもらえず、また現場ではなかなかタイ人との関係がうまくいかないことなどから、カウンセリングに行かなくてはならないような深刻な精神状態になってしまう方もいるようです。今まで何十年も暮らして染み付いた日本人としての考え方は簡単に変わるはずもないですから。
そんな難しいタイ人育成についてこちらで責任者として携わっている人の意見や私の思うところをあげてみますと以下のような感じです。
感情的に批難せず褒めて育てる
仕事のミスなどで日本人の感覚からするとなぜで出来ないのか、やらないのかとなることが多いですが、「なぜだ」よりも「どうしたの」で接していけるといいのではないかと思います。そして良かった時はきちんと評価して褒めてあげるようにしたいですね。
タイ人リーダーを育てる
日本人の経営者や責任者に対してはどうしても距離感があり、ただ従うか、反発するかというパターンになりがちですが、頼れるタイ人が育てば、まず部下はタイ人リーダーの言うことをよく聞きますし、タイ人リーダーからの現場報告によって状況の把握がしやすなり、全体のコントロールがうまくいくようになるでしょう。
社員教育も行えるコンサル業者に依頼する
これは製造業の日系企業などでは行っているところも多いかと思いますが、特に社員が多い企業の場合はコンサル業者に教育やセミナーを行ってもらうのも一つの手段としてあります。
タイ人との付き合いも新たな学びの機会として
このようにネガティブが点も多くあげてきましたが、これが必ず当てはまるわけではありません。私の顧客の多くは頼れるタイ人のリーダーを育てて良好な関係で会社を運用しています。この記事もタイ人との付き合いを新たな学びのチャンスと捉えていただけるよう、異国での新しいチャレンジに少しでもお役に立てれば幸いです。
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