2019年7月27日〜8月15日の期間、バンコクの100 Tonson Galleryにて日本の著名コンテンポラリーアーティスト小林孝亘による個展 “Balance”に向けた公開制作が行われました。今回同作家初の試みである制作現場の公開についてお伝えします。
小林孝亘 バンコクとのつながり
小林孝亘さんは1986年より作品を発表し、具体的な題材で自身の内面の移り変わりを反映した作品制作を行ってきました。1996年文化庁芸術家在外研修員としてバンコクに滞在した経験が縁となり、1999年よりバンコクにアトリエを移転。以降2011年までバンコクと東京を行き来しながら制作活動を続けました。1997年と2000年にはシラパコーン大学とバンコク大学のアートギャラリーで個展が開催され、シラパコーン大学には小林さんの作品が収蔵されています。今回は過去に個展を行ったときより親交のある100 Tonson Galleryにて、小林さんの自身初となる公開制作が20日間に渡って行われました。
バンコクでのワークショプ
今回のバンコク滞在期間中に同ギャラリーにて小林さんのワークショプが行われ、タイ人や欧米人など様々な国からの参加者が集まりました。タイ人の中ではコンテンポラリーアートへの関心と同時に日本のサブカルチャーをアートに落とし込む傾向が見られたり、欧米人からは小林さんの作品コンセプトについて禅と結びつけた質問や、作品の背景に描かれたグリーンを庭園と関連付けた見解、またミニマルアートについて語られるなど、異なった文化圏から見た日本に対するイメージを改めて認識させられる興味深い時間だったようです。
“Balance”公開制作
初めて制作現場をオーディエンスに公開した作家の感想をお伺いしてみました。
アトリエとの違い
集中して制作を行うにはやはりアトリエと同じようにはいかなったようですが、展覧会への作品完成に向けた空間としてはアトリエにない客観性が生まれたといえそうです。ただ比較的人の来ない午前中の方がはかどったようですね。作風としてライブによって触発され、作品が変化するような影響を受けることはありませんが、オーディエンスの立場からすると制作現場も含めて作品と捉えることができる新鮮な楽しさがありました。それはパフォーマンスアートのように今そこで起こる偶然性も含めたライブとは異なる進行形の作品です。
オーディエンスの反応
静かに制作風景を眺める静かな時間。作家と同じ空間において淡々と仕上げられていく没入感を共有しているかのようです。
期間中オーディエンスとの会話もあり、ある時にはまだ制作途中である作品について完成した作品という認識で質問を受けてやや戸惑うこともあったそうです。確かに未完の箇所については違った意味合いに捉えることがあるかもしれませんね。
作品の変化
今回手がけている作品は自然と人工物の相対するものが同時に存在する風景です。以前は森の中の風景を描いていましたが、“Balance”で制作しているのは、森を抜け出し空や樹木を背景にした人工物です。これについて作家から具体的な注釈はありません。
個人的には森のシリーズにおいては自身の内面に意識が向く、ともすれば外界や他者の不在性を感じさせると同時に、ある種の安らぎを見出すことができる作品ですが、制作中の作品では空の下に自然と具体的なオブジェがあるがまま存在しているという開けた印象を受けます。
これは作家自身に何か大きな変化があったことを感じさせますが、小林さんは静かに描きたいものに人工物が加わったという点を語り、あとどのように作品を感じるかはオーディエンスに委ねているかのようでした。
作品を日本から持ち込み、大掛かりでなかなか大変な試みだったようですが、小林孝亘独特の「ライブ作品」として、またの公開制作に期待しております。
小林孝亘個展 “Balance”
作品完成後の個展は、2019年8月15日〜11月3日まで100 Tonson Galleryにて開催しています。ギャラリーの情報は記事の最後に掲載しております。
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作家プロフィール
小林孝亘(こばやしたかのぶ)
1986年 愛知県立芸術大学美術学部油画科卒業
1996年 VOCA展奨励賞受賞
1996年 文化庁芸術家在外研修員としてタイ、バンコクに1年間滞在
1998年 アートスコープ‘98ガスコーニュ・ジャパニーズ・アート・スカラシップ派遣アーティストとして、フランスのロット・エ・ガロンヌに3ヶ月滞在
主な個展
1997年シラパコーン大学アートギャラリー、バンコク
1998年「Seventy Five Days」アジャン美術館、ロット・エ・ガロンヌ、フランス
2000年「近作展 23」国立国際美術館(大阪)
2003年「MOTアニュアル2003 おだやかな日々」東京都現代美術館
2004年「終わらない夏」目黒区美術館
2006年「愉しき家」愛知県美術館
2009年「眼を閉じて−“見ること”の現在」茨城県立近代美術館
2010年「絵画の庭−ゼロ年代日本の地平から」国立国際美術館
2014年「私たちを夢見る夢」横須賀美術館
2015年「画家の詩、詩人の絵」平塚市美術館他巡回
2016年「エッケホモ現代の人間像を見よ」国立国際美術館(大阪)
2019年「EAT」100 Tonson Gallery、バンコク、タイ
コレクション
国際交流基金
シラパコーン大学
広島市現代美術館
国立国際美術館
栃木県立美術館
群馬県立館林美術館
ダイムラー・クライスラー・ファウンデーション・イン・ジャパン
北海道立釧路芸術館
水戸芸術館
東京都現代美術館
大原美術館
高松市美術館
ヴァンジ彫刻庭園美術館
東京ステーションギャラリー
著書
『小林孝亘作品集−ひかりのあるところへ』(日本経済新聞社)
『小林孝亘-私たちを夢見る夢』(青幻舎)
『ふつうの暮らし、あたりまえの絵-小林孝亘の制作ノート』(求龍堂)
展覧会場情報
100 Tonson Gallery
住所:Soi Tonson, Ploenchit Rd., Lumpini, Pathumwan, Bangkok, 10330 Thailand
電話:(+66) 2-010-5813
営業時間:11:00-19:00 火曜〜日曜(休館日 月曜)