ヤンゴンのダウンタウンあたりを歩いていると道のあちこちで見かける血痕のような赤いシミ。またはサビのような鉄分を思わせるこの赤い痕跡を旅行などで行くと気になった方もいるのではないでしょうか。そしてもっと衝撃はタクシードライバーなどが赤い血のような唾液をベッと吐いたとき!これは「キンマ」という噛みタバコによるもので、ミャンマーの中年男性を中心に人気のある嗜好品です。ではこの謎のキンマについてどういったものであるかご紹介したいと思います。
キンマとは
熱帯の気候の中での重労働の労苦を癒す目的として普及したと考えられるキンマは、コショウ科コショウ属の植物でハート型をした葉に、水で溶いた石灰水を塗り、ビンロウというヤシ科の実とタバコの葉などを一口大に包んだものです。これを口の中に放り込みガムのような感覚で噛んで楽しみます。女性はほとんどキンマをやらず、主に中年男性からその上の年代の間で噛まれています。中には若い男性も愛好しています。
キンマを噛んでいるとその成分から唾液がたまり、それを飲み込まずに吐き出します。唾液はビンロウを噛んだ影響で赤い色になっているため、町で見かける唾液の跡が赤いのはこのためです。
キンマは噛みタバコとは違いますが、ミャンマーのキンマは大抵タバコの葉を混ぜており、噛みタバコといえますしそう認識されることが多いようです。
キンマの味や香り
トッピングのように好みでライムや砂糖、そして時にはパイナップルやココナッツジャムなどを入れたものもあるようです。
私はキンマを試したことはありませんが、コショウ科の葉のせいかピリピリとした渋みとともに清涼感があるそうで、これが活発な唾液の分泌を促します。そしてアルコールに酔ったような陶酔感があるのも特徴です。
香りはタクシードライバーなどが噛んでいると車内に爽やかないい香りが広がります。にんにくなどをよく使うミャンマーでは食後の臭い消しの意味もあるようですね。
キンマの値段
スタンダードな配合のキンマで50チャット(約4 円)。先程のトッピングされたようなキンマは100チャット(約8円)くらいです。一袋6個入で売っていることが多いようです。お店によって配合が違うので、、皆さんそれぞれ行きつけのお店を持っているようですね。
キンマ作りの様子
露天などではキンマを頻繁に作っては袋に詰めていきます。ちょっとどんな感じでキンマが出来上がるか見てみましょう。
水で溶いた石灰水をキンマの葉に塗っていきます。
タバコの葉やトッピングをふりかけていきます。
ビンロウの実を置いていきます。これが唾液を赤くする原因。
包んだキンマを袋詰してつまようじで留めます。
はい、1セットの出来上がり。
キンマによる健康被害
キンマは人体への悪影響がいくつかあります。
発がん物質
キンマを噛むことによって発がん物質が発生しやすくなります。これは口腔がんを引き起こす原因となります。
依存性がある
アルコールのような陶酔感やタバコを混ぜることから依存性が高く手放し難くなります。
歯の変色
石灰を含んでいる影響で赤くなった唾液と一緒に歯にこびりついて歯が褐色に変色します。これを何十年と続けるとまさにお歯黒のような状態になります。お年寄りで歯が真っ黒な方もいますね。
あごの骨の変形
長年の常習によって顎の骨が変形することがあります。キンマの常習で明らかに変形した昔の遺骨が発掘されたりもしています。
これらの副作用は主にキンマではなくビンロウジによるものです。
手作りの嗜好品キンマ
キンマはアジアなど他の国にもあるものですが、これほど規制がなく町の中で見かけるのはミャンマーが最たるものではないかと思えるほどです。
キンマはその昔日本にも噛みタバコの嗜好品としてではなく、キンマを入れる漆工芸品が室町時代中期(15世紀頃)に伝来して茶人を中心に香入れとして人気が広がったそうです。日本らしい伝わり方ですね。
健康被害を考えると感心できない部分はありますが、何でも工場製品のこの現代で、未だ手作りの嗜好品が露天で売られているのはいいものだなと感じます。
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